今このタイミングで東芝HD DVD撤退を語ろうか
今年の年始、1月5日にワーナーがHD DVDフォーマットでのコンテンツ提供を終了すると発表した。これは俗に言われているワーナーショックだが、読者の皆さんもご存知の出来事であるだろう。考えてみれば、このフォーマット戦争はそれはまるで領土戦争かのようにコンテンツホルダーの奪い合いあってきた。結果、一番の影響力を持つワーナーのHD DVDへの完全決別によって、2月19日に終戦へ導かれたわけだ。
さて、今回僕がこのblogで書きたい事はHD DVDの敗因でもなければ、BDの技術的なアドバンテージでもない。これらの話は、尊敬するAV評論家の先生方が様々なメディアで語って頂いているし、僕自身もその記事を読んで知識を頂いているクチなので、おまえが何を語る!と怒られてしまう。なので、僕がここで書きたい点はHD DVDにまつわる人の部分。消費者と、メーカーの技術者と営業の方々に関しての話にしたい。
HD DVDフォーマットを選択した東芝は、今回のこの撤退をフォーマットからの撤退ではなく、今後BDでの競争を選ばずにレコーダー市場からの撤退するとの位置づけで発表をした。この東芝にはHDDレコーダー市場を開拓し続けてきたRDというブランドがある。僕がまだ家電量販店の販売員をしていた頃には、「東芝RDは画が良い」と評判で、お客様の指名買いがよくあったものだ。そのRDブランドには、確実にそのブランドを支持している消費者がいるのだ。今回も07年のCEATECで展示されていたRD-X7が発売に至る事を待っていた消費者がいたことだろう。だからこそ、僕自身は東芝がHD DVDを諦めてBDの採用を経営判断できたら、最強のコンビになるのではないかと考えていた。HDDレコーダーを牽引したメーカーが、次世代メディアのディファクト・スタンダードと手を組むのだから当然では無いだろうか。僕は一消費者として、そんな素晴らしい組み合わせの製品を手にしたいと思っていたし、同じように考えていた方も多かったのではないだろうか。しかし、今回の東芝の発表は、フォーマットとの決別ではなくて、市場との決別であった。これには非常に残念でならない。
この残念な気持ちは先述の一消費者としての思いだけではない。素晴らしいRDを作り出してきた、素晴らしい技術者の方々の活躍の場が無くなってしまうことも悲しい。僕は東芝のRDの技術者の方達にお会いしてお話を伺った事があるのだが、その方々は非常に素晴らしい技術的なノウハウをお持ちで、自身がエアチェックをしたり、コンテンツ(この方はガンダム的なアニメ好きだったが)をご覧になることが本当に好きな方、またオーディオ的な知識(こういう製品はアナログ的な知識も非常に大切)、情熱を持っている方だったりと、想いと技術を兼ね備えた素晴らしい技術者達だったのである(僕にとって素晴らしい技術者とは、情熱のある方。製品に愛情のある方が絶対!)。さて、市場撤退をすれば、そういう技術者の方達の活躍の場を奪い兼ねないし、東芝の社内で技術の伝承も行われにくくなってしまうのではないだろうかと危惧している。僕の考えでは、技術と、技術者が活躍できる環境は、企業のヘリテージ(遺産)と思っている。それは、僕の技術者への尊敬の念からの考えかもしれない。願わくば同じような尊敬の念が、企業から、そこで働く技術者にもあってほしいと思う。東芝はBDでもこれまで培ってきたヘリテージを生かすことが出来るであろうし、次世代の東芝技術者へと継承してゆける。結果として、そうならなかったのが残念でならない。
最後に営業という視点からこの件に触れてみたい。まず今回の東芝の撤退の正式発表の前の動きを振り返っていただきたい。2月19日の火曜午後に正式発表だったのだが、情報が一般にメディアに載ったのは16日の土曜。18日の月曜には、東芝はこの撤退の報道を一度否定している。検討はしていても、決定に至るフェーズではないとして。なぜ、そのとうな歯切れの悪いコメントの履歴を残してきたのだろうか。僕はここを営業的な側面から推測をしてみるのだ。多分、東芝の撤退はずいぶん前から決定していたであろう。ただし発表は19日の予定では無かったのだと思う。なぜか?情報のリークから正式発表までにお茶を濁すなどして、時間を稼いだ事こそがそれを示唆している。
この事を詳しく書いてみよう。東芝には撤退の決定から正式の発表までの間に、すべき事がある。それは量販店や流通への仁義を通す事と、HD DVD関連製品の市場在庫の引き上げと同時に、別の商材での発注をもらうこと。
今回メディアにリークされてしまったが、本来なら取引業者に撤退の説明を完了してからメディアからのニュースの配信とならならなければならない。そうでなければ、メーカーからの説明の無いままに、量販店は消費者からの問い合わせに対応しなければならないなどの混乱が生じるからだ。したがって、東芝は日ごろ取引をしてもらっている相手に対して混乱が生じないように事前に説明をし、発表時には市場在庫を引き上げ、できれば専用問い合わせ窓口などを設置するなどの対応もしたいところだ。
次に撤退に伴い市場在庫の引き上げを行うわけだが、その際に取引先の在庫金額が返品によって軽くなった分で異なる商材の発注をお願いしなければならない。そうしないと、営業としては販売金額以上に返品金額が上回ったり、そこまで極端で無くても、返品によって大きく予算割れしてしまうことは不可避だからである。なので、通常の営業であれば返品金額と同じか、まあ、取引先に迷惑を掛けているので同じ金額分ではないにしても、それなりの金額の発注を別製品でもらわなければならない。簡単に言えばバーターである。
今回のバタバタを見る限りでは、東芝が予定していたタイミングでの発表ではなかったのであろう(あと少しの時間が必要だったはずだ)。だから月曜にはお茶を濁していたわけで、その間にバーターの商談は出来なかったとしても、19日の火曜午前中までには主要取引業者には撤退の正式文書を出していたに違いない。それら最低限の対応をしたうえで正式発表の場を持ったのだと考える。僕は量販店の店員のあとに、ある国内メーカーの営業も経験しているが、当時を振り返ると、バイヤーと厳しい商談をし、あれや、これやと画策し、無理を言って製品を仕入れてもらってきた。販売インセンティブを付けたり、休日に店頭に販売応援員として立ったり…そうやってバイヤーや、フロアー長の信頼を得て、物を仕入れてもらってきたのだ。現場の営業としては、そうやって培った信頼を壊さないように、会社として取引先に仁義を通してもらわないと困る。また取引はHD DVDだけではないのだから、関係の保全は最重要事項としなければならないのだ。そのために必要な時間を稼ぐための18日と19日の午前中だったのであろう(あくまで推測だが)。
なんにしても、東芝としては予定外のタイミングでの対策を求められた可能性が高く、その点は心から同情していまうし、これまでに世の中に出てきたRDと、それを生み出してきたスタッフに改めて尊敬の念を示したい。
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